この記事では、安定した収益を期待できる投資先として人気の高い不動産投資信託(REIT)について、投資判断に必要な基本指標をわかりやすく解説しています。主に日本国内のJ-REITを対象とし、株式とは異なる評価軸を丁寧に整理しました。具体的には、REITの収益力を表すFFOとその倍率、純資産価値を示すNAVとNAV倍率、不動産の実質的な収益性を測るNOIおよびその利回り、さらには減価償却を考慮した償却後NOIの意義について解説しています。加えて、市場評価とのズレを捉えるインプライドキャップレートや、財務リスクを見るためのLTV、金利変動に強い体質を示す固定比率にも触れ、REITの健全性や将来性を判断するための視点を多角的に提供しています。さらに、株式投資と比較しながら、REIT特有の分析の必要性を示し、初心者でも実践的な評価ができるような内容となっています。なお、ここではJ-REITを対象としています。
✅ 安定収入を生むREITの基本指標が体系的に理解できる
✅ 株式投資との違いや共通点を知ることで、投資の幅が広がる
✅ 割安・割高の見極めに役立つ分析力が身につく
✅ 金利や借入リスクに強い資産の選び方がわかる
✅ 長期的に安定したキャッシュフローを得るための判断基準を得られる

FFOとFFO倍率の理解
- FFOは収益力を示す
- FFO倍率は収益力に対する市場の評価を示す
FFO(Funds from Operations)は、REITがどれだけ安定してキャッシュフローを生み出しているかを示す重要な指標です。REITは保有する不動産から賃料収入を得ており、減価償却の影響を受けやすいため、通常の会計上の利益だけでは実態が把握しにくいことがあります。そのため、FFOを活用することで、物件が生み出す現金収入の実態を把握しやすくなります。
FFO=当期純利益+減価償却費±不動産売却損益
FFO倍率は、株式におけるPER(株価収益率)に近い考え方です。この倍率が高ければ市場から高く評価されていることを示し、逆に低ければ割安と判断されることがあります。
FFO倍率=投資口価格(REIT価格)÷1口あたりFFO(注1)
注1) 1口あたりFFO=FFO÷発行済み投資口数
- Jリートの場合は減価償却費の扱いや保有資産によって減価償却費の割合が異なる場合があるため注意が必要
NAVとNAV倍率の重要性
- NAVはREITが保有する純資産の価値を示す
- NAV倍率は投資口価格の割安度を示す
NAV(Net Asset Value)は、REITが保有する不動産の純資産価値を反映した指標です。不動産の時価から負債を差し引いた金額が純資産となり、それをもとにNAVが算出されます。
NAV=純資産額+含み損益
NAV倍率は株式のPBR(株価純資産倍率)に似ており、投資口価格がNAVと比べてどれほど高いか低いかを示します。NAV倍率が1倍を超えていれば市場はそのREITを高く評価しており、将来的な価値上昇が見込まれていると考えられます。一方、1倍を下回る場合は割安と判断されることが多くなります。
NAV倍率=投資口価格÷一口あたりNAV
NOIとNOI利回りとは何か
- NOIは純営業利益を示す
- NOI倍率は収益性を示す
NOI(Net Operating Income)は、不動産から得られる純営業利益を示します。これは、賃料収入から運営コスト(減価償却費を除く)を差し引いたもので、物件自体の収益性を把握するのに役立ちます。
NOI =不動産の賃料収⼊-不動産の運営管理にかかる費用(減価償却費を除く)
NOI利回りは、NOIを物件の取得価格で割って求めます。これは株式でいう「配当利回り」に近い考え方であり、NOI利回りが高いほど投資効率が良いと判断できます。
NOI利回り=NOI÷不動産価格
償却後NOIとその利回りの考え方
- 償却後NOIは純営業利益を示す(減価償却込み)
- 償却後NOI倍率は収益性を示す(減価償却込み)
償却後NOIとは、NOIから減価償却費を差し引いた指標であり、資産の劣化も考慮した収益性を表します。長期的な運用を想定する場合、この償却後NOIによって、より現実的な収益力を測ることができます。
償却後NOI=NOI-減価償却費
償却後NOI利回りは、減価償却を含めた収益性を評価するため、物件の長期的な運営状況をより正確に把握するのに役立ちます。これにより、現実的な投資判断ができるようになります。
償却後NOI利回り=償却後NOI÷不動産価格
インプライドキャップレートとLTVの活用
- インプライドキャップレートは市場からの要求利回りを示す
- LTVは不動産の借入リスクを示す
インプライドキャップレートは、市場価格とREITのNOIを用いて、現在の市場がその物件に求めている利回りを示すものです。キャップレートが低い場合は評価が高く、逆に高ければ市場が割安と判断している可能性があります。
インプライドキャップレート=NOI÷買収価格(注1)
注1) 時価総額+ネット有利⼦負債+敷金・保証金
LTV(Loan to Value)は、REITが保有する不動産に対してどの程度の負債を抱えているかを示します。LTVが高いと財務リスクは増しますが、レバレッジ効果によって収益を押し上げる可能性もあります。
固定比率とその重要性
- 固定比率は金利の安定性を示す(固定金利の割合)
固定比率は、REITが借り入れている資金のうち、固定金利で調達している割合を示す指標です。この比率が高ければ金利変動の影響を受けにくく、収益が安定しやすくなります。
特に金利が上昇傾向にある局面では、固定比率の高いREITの方が安全性が高いと評価される傾向があります。金利リスクを管理するうえで、固定比率は欠かせないポイントです。


株式指標との比較で考えるREIT投資判断
REITの指標は、株式投資の経験がある人にとってなじみやすいものが多くあります。たとえば、FFO倍率は株式のPER(株価収益率)に似ており、投資口価格が収益に対して割高か割安かを判断するために使われます。同様に、NAV倍率はPBR(株価純資産倍率)に近く、市場がREITの純資産をどう評価しているかを示します。また、NOI利回りは株式の配当利回りに相当し、不動産がどれだけの収益を生んでいるかを確認できます。
- FFO倍率=PER(株価収益率)に類似
- NAV倍率=PBR(株価純資産倍率)に類似
- NOI利回り=配当利回りに類似
こうした指標の共通点により、株式投資の知識をREITにも応用しやすくなっています。ただし、REITには物件の老朽化や空室率の上昇、金利の変動など、不動産ならではのリスクがあります。株式と同じように判断するのではなく、それぞれの特性を踏まえて総合的に評価することが大切です。株式との比較を入り口に、REITならではの分析視点を身につけていくことが、長期的に安定した投資成果につながります。


まとめ
REITへの投資を行う上で重要なのは、表面的な利回りや価格だけでなく、その裏にある財務構造や物件の収益力を示す各種指標を正しく読み解くことです。FFOはキャッシュフローに基づいた収益力を表し、FFO倍率は市場評価との関係を示します。NAVとその倍率は、資産価値に対する評価を読み取る材料になり、NOIや償却後NOIは物件の運用効率や耐久性を把握するための指標です。また、インプライドキャップレートやLTVといった財務リスクや投資妙味の判断材料も重要です。さらに、固定比率を確認することで金利上昇局面でも安定した収益を維持できるかどうかを見極めることが可能です。株式と似た考え方を活用しながらも、REITならではの視点を持つことが、より良い投資判断と資産形成に直結します。この記事を通じて、REITの本質的な価値を見極める力を身につけていきましょう。
セクション | 主な指標・概念 | 内容の概要 |
---|---|---|
FFOとFFO倍率の理解 | FFO・FFO倍率 | REITのキャッシュフローを示す指標。PERに似た倍率で割安度を判断。 |
NAVとNAV倍率の重要性 | NAV・NAV倍率 | 純資産の価値と市場価格の比較。PBRに似ており、1倍以上で割高、未満で割安と判断。 |
NOIとNOI利回りとは何か | NOI・NOI利回り | 運営利益を表す指標。収益性を測る。配当利回りに近い。 |
償却後NOIとその利回りの考え方 | 償却後NOI・償却後NOI利回り | 減価償却を考慮した実質的な収益性を示す。長期的な運用力を判断可能。 |
インプライドキャップレートとLTVの活用 | インプライドキャップレート・LTV | 市場評価と財務リスクを測定。割安・割高、借入比率の高さを確認する材料となる。 |
固定比率とその重要性 | 固定比率 | 固定金利負債の割合。金利変動への強さを示す。高いほど安定性がある。 |
株式指標との比較で考えるREIT投資判断 | PER・PBR・配当利回りとの比較 | 株式と類似した評価軸を活用しつつ、REIT特有のリスクや視点も必要。 |